「患者と探す 心の回復」を読んで
中日新聞【2021年5月13日】は、精神科医夏苅郁子さんが、今回出版した、「精神科医療の7つの不思議」の紹介記事を載せた。夏苅さんは、精神科医の夫とともに、焼津市で、「やきつべの径(みち)診療所を営む。
かつて、名古屋駅の近くの会場で夏苅さんの講演を聞いたことがあるので、記事に関心を持った。医学博士号を持つ。確か博士論文を大規模の調査をもとに書いた人ではなかったかなと思う。今回の本も、6千人の調査実施と書いてある。
「調査」をもとに医学論文を書くことに疑義を持つ人がいた、と聞いたと思う。この調査の基本は、主治医の診療態度を問うという内容である。自ら医師が自分たちの診療態度を問うということは勇気のいることだ。医師の患者への在り方を問うという、厳しいものだ。
教師の場合、研究授業と言って、同僚の先生から、授業内容、教え方などについて改善のための厳しい職業的訓練の場がある。有名大学、国公立大学出身だからと言って、うぬぼれている人もいる。ほんとに人間性があるのか。教師像を求めて。改善の道は自分自身で進めなければいけない。
私は、臨床心理士として、自分の態度がどうであるか、自戒を込めて考えなければいけないという気持ちだ。このことは、臨床心理士、公認心理師についても自戒を込めて反省することだと思う。精神福祉士でも、看護師・介護福祉士でも、同じであると思う。
全国の精神疾患の人と家族に郵送で調査を実施した。約6千人から回答を得た。主治医・担当医の診療態度に関して、25項目を挙げ、4段階で評価してもらった結果の概要を著書で紹介した。新刊は、ライフサイエンス出版から1650円。
調査の報告書によれば、「きちんと顔を見て、目を見て話をしてくれる」、「親しみやすい雰囲気を持っている」、「など誠実さや親しみやすさを測る項目では、約8割が肯定的に評価。
2割は、否定的であるということだ。
一方で、「病名や薬について十分な説明がない」、「回復の見通しについて納得できる説明がない」など治療に関する内容は、患者の3割以上が不十分と感じていた、と。患者や家族は、病名について、劣等感、困り感、成育歴にやりきれなさ、先入観、偏見、絶望感、希死念慮、自殺企図などを持っているかもしれない。
対人関係でも、家族との関係でも、医師との関係でも、良好な関係を持っている人、いない人がいるかもしれない。心の病の人は、神経質になるかもしれない。待ち時間についてもイライラするかもしれない。
私の体験を述べる。近くのかかりつけの病院で、ドクターの話を聞きそこね、「もう一度言っていただけますか」と質問に対し、丁寧に答えてもらえなかった。きつい言い方で、非難する気持ちで返事をもらった。不愉快な気分を味わった。「ドクターは若い」という印象だった。
夏苅さんが、そもそもこんなことを何故しているのか。彼女の成育歴にある。詳しくは、ウィキペディアの夏苅郁子を読まれたい。
引用すると、「北海道生まれ。父親(薬品会社勤務)の転勤で、幼少期から中学時代まで引っ越しが多かった。10歳のとき、母(看護師)が統合失調症にかかる。家庭を顧みず収入を家に入れぬ父親とは疎遠であり、病んだ母親と二人の孤立した過酷な少女時代を送る。
両親が離婚した後、実家に引き取られた母と会うことを拒む。父の籍に残ることになったがもともと疎遠な父と暮らすことはなく、孤独と絶望から2度の自殺未遂。友人の仲介により母と再会した。その後イラストレーターの中村ユキ著の「我が家の母はビョーキです」という本を読んで、母の統合失調症を真正面から向き合うことにした。」
エッセイ「心病む母が遺してくれたもの精神科医の回復の道のり」を出版。母の病気とのかかわりや自身の病気(摂食障害、うつ病)、回復した過程を書いて反響を呼んだ。私は一気に読んだ。日本各地を講演した。名古屋にも来られた。
病気回復の道のりは大変だった。自身の闘病体験は、医師への不信、自身の症状と処方薬の副作用に悩んだ。医師との関係、不信感。講演での語り口は、やさしさで溢れる内容であった。