2025年04月25日

ブックレットにっせいしんを読んで


    特集 統合失調症    統合失調症について

    とくに早期介入やリカバリーの視点から理解を深めていただくために

   松本和紀 こころのくりにっく OASIS院長 

前東北大学精神神経学分野准教授



 
最近、私は勤務する心療内科においてある、パンフレット、にっせいしん、2025.Feb.17 特集/統合失調症を読んだ。この記事の中で、最近の統合失調症についての、最新の知見、というか、新しい統合失調症についての見解を読んだという、感想を持った。

それは、図2 精神症体験の連続体モデルである。連続体モデルというのは、最近、スペクトラムという言葉で盛んにつかわれる。疾病の症状のいろいろな状態の表現の仕方を、連続体として表現する言い方である。

 それは、軽いものから言えば、精神症様の体験8%、精神症の症状を体験4%、精神症(精神症性障害)3%、統合失調症0.3−0.9%、というものである。

 この記事の中で、前触れの時期・リスク状態という表現に注目した。少し長いが、文章を引用する。その中に、希望の持てる表現を見つけた。

「この状態から実際に統合失調症などの精神症になる人は、全体の四分の1〜三分の一程度です。すっかり良くなる人もいますが、うつ病や双極症、不安症などになる人も多くいます。」
この表現の中の、「すっかり良くなる人もみえます」、という表現に希望が持てる。

「初回エピソード精神症」
 記述をもう少し紹介する。「生涯で始めて精神症の症状が明らかに続く状態は、初回エピソード精神症(以下初回精神症)と呼ばれる。初回精神症は、短期的な経過は良好なことが多く、数週から数か月ですっかり良くなり安定する人もいます。」

私は、ここの部分の表現に注目した。

さらに、次のような、にっせいしんのブックレットの統合失調症についての最前線の学問的な記事を見つけた。



 

ブックレット にっせいしんの2011.2No.3の記事

        「統合失調症の疾病感の変化と早期支援」

      西田淳志 東京都医学研究機構・東京都精神医学総合研究所


 
2011年の記事というと、
ずいぶん古い記事になるが、最前線の内容の記事だと、私は思う。

 この論文の中で、「悲観的な疾病イメージ」の見出しで、筆者は、「固定的・悲観的疾病イメージは、治療者から患者・家族への病名説明を躊躇させ、それが心理教育の不足、治療継続性の低下に結びついていました。」と記述している。その通りだろう。

 「世界各国の早期支援サービス」の中で、「イギリスなどでは、この10年間に全国的に早期支援サービスが普及されました。」とある。

 更に、「最新の研究成果では、発病後2年間の集中的な認知強化療法によって、病初期の脳構造変化を減少させ、症状や機能改善に有意に影響を与えることが明らかになっています」
「イギリス、ウスター州などの専門サービスは、約50%のサービス利用者が、復学・復職を達成したとする報告をしています。」

「こうしたサービスを日本でも実現し普及するためには、医療スタッフの努力のみならず、制度として整備をすすめる必要があります。」

とこの著者は、書いている。


 引用は、以上です。統合失調症についての明るい知見を読んだ、という感想です。

 世界の最前線の進捗状況を知ったという感想です。日本でも、このような医療サービスが行われることを期待します。
 すばらしい内容の記事でした。

 にっせいしん事務局からから、後半の記事/ブックレット にっせいしんの2011.2No.3をメールで送って頂いたことにお礼を申し上げます。       


 にっせいしん=社団法人 日本精神神経科診療所協会








posted by 花井英男 at 19:59| 心の病

2025年02月03日

フラッシュテクニックの治療効果ートラウマ治療の心理技法ー

フラッシュテクニックの治療効果について
―トラウマ治療の新しい心理技法―

―楽しい肯定的体験に基づいて、トラウマを克服―



昨年、12月、南和行先生が日本へ導入した、トラウマからの回復のための、フラッシュテクニックの研修を受けた。
 早速、瑞穂CBT相談室でも、ならい心療内科でも、トラウマを抱えるクライエントに紹介し実践をしています。
治療効果は大きい。

 特徴は、トラウマを抱えるクライエントの肯定的体験に気持ちを集中するという心理技法です。具体的に言うと、クライエントのリソースをもとに、トラウマを解消するということです。扱う問題として、過去のトラウマの体験を一言で言ってもらうだけです。詳しいことは触れてもらいません。ですから、 過去のトラウマ体験に没入することはありません。もっぱら、リソースのみ考えてもらいます。それだけです。

 楽しく解決できるという特徴があります。これなら、スクールカウンセラ−として短時間でも取り組むことができます。

 椎野智子先生(神戸親和大学教授・医学博士)と牧野有香里先生(心理学博士)も、フラッシュテクニックを推奨しています。
 椎野智子先生は、愛知学院大学大学院の同窓生として、ご活躍を期待しております。

 フラッシュテクニックは、リソースをもとにトラウマから回復をするが、リソースがなければどうするか。この場合、藤本昌樹先生のボディコネクト療法がある。つぼと眼球運動を使う。これも、開発されて、研修会が、東京と大阪で何回も行われいる。

 さて、私のトラウマ治療法の研修経歴を述べさせていただきます。

 私は、トラウマ治療のための心理技法として、まずは、EMDR療法の研修を受け、クライエントの数々のトラウマを解消してきました。

 次に、小栗康平先生開発(のちに新谷宏伸先生が発展させた)のUSPT療法の研修を受けて、数々のクライエントのトラウマの解消に努めてきました。解離性障害のクライエントには有効です。

 その後、トラウマからの解放の技法は、次々と開発され、ボディ・コネクト療法が、藤本昌樹先生によって開発されました。つぼと眼球運動によるもの。

 開発過程の順序・日本への導入過程はともかく、嶺輝子先生のホログラフィ・トークもあります。森川綾女先生のTFTにも関心を持ちました。

 日本で本当に、いくつか紹介・開発がされました。
 
 クライエントにとって朗報です。心理士にとっても朗報です。
  
 ここ数年のうちに、トラウマの心理療法は、大きく発展してきました。これからもきっと開発が続くと思いますし、クライエントのための新しい心理技法が出てくることを期待します。

 EMDR療法は、べーシックトレーニングのテキストが、新しくなりました。杉山登志郎先生のTSプロトコルも好評のようです。









posted by 花井英男 at 11:30| 心の病

2021年05月13日

「患者と探す 心の回復」を読んで

「患者と探す 心の回復」を読んで


中日新聞【2021年5月13日】は、精神科医夏苅郁子さんが、今回出版した、「精神科医療の7つの不思議」の紹介記事を載せた。夏苅さんは、精神科医の夫とともに、焼津市で、「やきつべの径(みち)診療所を営む。

かつて、名古屋駅の近くの会場で夏苅さんの講演を聞いたことがあるので、記事に関心を持った。医学博士号を持つ。確か博士論文を大規模の調査をもとに書いた人ではなかったかなと思う。今回の本も、6千人の調査実施と書いてある。

「調査」をもとに医学論文を書くことに疑義を持つ人がいた、と聞いたと思う。この調査の基本は、主治医の診療態度を問うという内容である。自ら医師が自分たちの診療態度を問うということは勇気のいることだ。医師の患者への在り方を問うという、厳しいものだ。

教師の場合、研究授業と言って、同僚の先生から、授業内容、教え方などについて改善のための厳しい職業的訓練の場がある。有名大学、国公立大学出身だからと言って、うぬぼれている人もいる。ほんとに人間性があるのか。教師像を求めて。改善の道は自分自身で進めなければいけない。

私は、臨床心理士として、自分の態度がどうであるか、自戒を込めて考えなければいけないという気持ちだ。このことは、臨床心理士、公認心理師についても自戒を込めて反省することだと思う。精神福祉士でも、看護師・介護福祉士でも、同じであると思う。

全国の精神疾患の人と家族に郵送で調査を実施した。約6千人から回答を得た。主治医・担当医の診療態度に関して、25項目を挙げ、4段階で評価してもらった結果の概要を著書で紹介した。新刊は、ライフサイエンス出版から1650円。

調査の報告書によれば、「きちんと顔を見て、目を見て話をしてくれる」、「親しみやすい雰囲気を持っている」、「など誠実さや親しみやすさを測る項目では、約8割が肯定的に評価。
2割は、否定的であるということだ。

一方で、「病名や薬について十分な説明がない」、「回復の見通しについて納得できる説明がない」など治療に関する内容は、患者の3割以上が不十分と感じていた、と。患者や家族は、病名について、劣等感、困り感、成育歴にやりきれなさ、先入観、偏見、絶望感、希死念慮、自殺企図などを持っているかもしれない。

対人関係でも、家族との関係でも、医師との関係でも、良好な関係を持っている人、いない人がいるかもしれない。心の病の人は、神経質になるかもしれない。待ち時間についてもイライラするかもしれない。

私の体験を述べる。近くのかかりつけの病院で、ドクターの話を聞きそこね、「もう一度言っていただけますか」と質問に対し、丁寧に答えてもらえなかった。きつい言い方で、非難する気持ちで返事をもらった。不愉快な気分を味わった。「ドクターは若い」という印象だった。

夏苅さんが、そもそもこんなことを何故しているのか。彼女の成育歴にある。詳しくは、ウィキペディアの夏苅郁子を読まれたい。

引用すると、「北海道生まれ。父親(薬品会社勤務)の転勤で、幼少期から中学時代まで引っ越しが多かった。10歳のとき、母(看護師)が統合失調症にかかる。家庭を顧みず収入を家に入れぬ父親とは疎遠であり、病んだ母親と二人の孤立した過酷な少女時代を送る。

両親が離婚した後、実家に引き取られた母と会うことを拒む。父の籍に残ることになったがもともと疎遠な父と暮らすことはなく、孤独と絶望から2度の自殺未遂。友人の仲介により母と再会した。その後イラストレーターの中村ユキ著の「我が家の母はビョーキです」という本を読んで、母の統合失調症を真正面から向き合うことにした。」

エッセイ「心病む母が遺してくれたもの精神科医の回復の道のり」を出版。母の病気とのかかわりや自身の病気(摂食障害、うつ病)、回復した過程を書いて反響を呼んだ。私は一気に読んだ。日本各地を講演した。名古屋にも来られた。

病気回復の道のりは大変だった。自身の闘病体験は、医師への不信、自身の症状と処方薬の副作用に悩んだ。医師との関係、不信感。講演での語り口は、やさしさで溢れる内容であった。








posted by 花井英男 at 22:13| 心の病